いよいよ夏山シーズン到来で、今年も毎年恒例師匠との山行を計画することになりました。 昨年の火打山&妙高山は、行動時間14時間半という拷問と言っても過言ではない、とんでもない 登山となりましたが、余程この計画立案に懲りたのか、 「以降は一切山の計画は行わない」 と師匠が宣言され、今年は私とNちゃんが計画しなければならないことになっていました。 しかし、師匠は仙丈ヶ岳にはまだ登っていないという事で、今回仙丈ケ岳と甲斐駒ケ岳が良いと のリクエストがあり、とりあえず場所だけは決定していました。 今となっては懐かしく楽しい思い出となっているのがちょっと不思議な程の、昨年の拷問登山で すが、今年は同じ轍は踏まないように、師匠の意見も聞きながらかなり慎重に計画しました。 途中思いつきとしか思えない師匠の「テント泊をしよう」という安易な発言に翻弄されつつも、最終的には小屋泊2泊での余裕を持った登山計画となりました。 不安要素を挙げるとすれば、今年は計画が週末に重なってしまった為、混雑は覚悟しなければならなかったことくらい。実際、Nちゃんが小屋に予約を入れてくれた時点で既に仙丈小屋はいっ ぱい。初日は辛うじて馬の背ヒュッテに泊まることになりました。 しかしこの馬の背ヒュッテ、ネットで調べてみるとあまり評判が良くありません。 混雑時の富士山のように足と頭を交互にして寝ろと言われたらどうしよう??とか、そもそも小 屋泊2泊に耐えられるのか?? 等不安は尽きませんでしたが、これもまた試練!とにかく頑張る他ありません。 そしてついにその日はやってきました。 まずは軽井沢の師匠別荘に集結し、前夜祭です。あるものでちゃちゃっと料理を作り、結局22時過ぎまで酒盛りをしたものの、4時起床で戸台まで出発です。 初日の馬の背ヒュッテまではルートが二つあり、当日ギリギリまでどちらを使うか決定しないままでしたが、バスに乗り込む直前に最終的な判断を師匠に委ねました。 今回相当の登山客がいるであろうと予想されるため、私の中ではマイナールートではありながら なかなか評価は高い丹渓新道が良いのではないかと思っていました。 しかし最短ルートに比べると標準タイムで1時間40分をさらに要すことや、到着遅れで小屋の寝 る場所が選べなくなる等マイナス要素もありました。最終的に師匠が丹渓新道を選択してくださ り、早速バスの運転手さんに途中下車をお願いし、登山口へ。 この丹渓新道入口からは、甲斐駒ケ岳から連なる上級者の山「鋸岳」が目の前で、有名な鹿ノ窓 がちょうど見えています。暫しその針穴のような鹿ノ窓を眺めてから、いよいよ登山開始です。 さすがマイナールート、いきなり側面につけられた階段に草が生い茂り、手でかき分けながら上 へと進みます。しかし、事前に調べた通りルートの目印はそこここにあるので、道迷いはなさそうだし、歩きやすい道で難しい箇所もありませんでした。 何より良かったのは、登山客が皆無だったこと。馬の背ヒュッテへの分岐に来るまで、全く人と すれ違う事無く、完全に登山道を独り占めしながら歩く事ができました。 苔むした木々や岩等を眺めつつ歩いていると、アサギマダラがひらひらと舞い寄って来て、私達 に挨拶をするが如く、一緒にひらひらと後ろをついてきます。 暫し立って蝶を見つめていると、その蝶がふわりと私の手の甲にとまりました。 そして、かなり長い時間じっとして動かないまま花と勘違いしているのかストロー状の口をしきりに手袋の布目にに差し込んでいます。何となく、死んだ父親なんじゃないか?と思う程のフレ ンドリーさでした。 その後ようやく森林限界を抜け、独標である岩峰を越えていくと馬の背へ。 ここからは、翌日登る予定の仙丈ヶ岳が真正面に見えています。暫く馬の背歩きをテクテク楽し んだ後は、分岐を東方向へ10分下り、馬の背ヒュッテに到着です。 思いの外師匠の調子が悪そうで、この感じだと最終日の甲斐駒ケ岳には行けないのではないか? と思う程でかなり心配しましたが、初日の行程としては計画より早く到着したのでまずは一安 心。 Nちゃんと私はストックを縮め、ザックにしまい、ストックカバーをして完璧な状態で小屋入っ ていきました。すると一足先に小屋に入っていた師匠が、強面でひげもじゃの小屋のお兄さんに早速注意をされていました。 「お父さん、お父さん!!こ、こ、はー、内側なんです!サンダルで上がらないでください!」 「それと、ストックは縮めて!!泥は外にあるブラシで落としてからしまってください!!」 かなり語気も強く、完全に上からの物言い。しかも、師匠のストックは壊れていて、完全に縮め ることはできないので困っていると、お兄さんは力任せにストックを折る勢いで縮めようと必死 になっていました。 しかし、敢えなくそれは不可能だと判断したのか、 「仕方ないですね。このままザックにしまってください。」 と言い放ち、ようやく小屋の中へ。 ここら辺までの一連の流れ、のんびりマイペースの師匠とひげもじゃのお兄さんの対比、世の中には色んな人がいるよなぁ。という人間観察、全てが面白くて思わず吹き出しそうになる始末。 師匠、初日からやってくれます(笑) さて、強面ひげもじゃのお兄さんは、その後も私達の期待を裏切る事無く私達を誘導し、軍隊さ ながらの雰囲気を醸し出しながら、寝床へ案内してくれました。 まず最初に驚いたのは、ザックを寝床に持ち込めない事。理由はかなり小屋が狭いから。 となると、ザック置き場に置いておくしかないのですが、この日の宿泊客は総勢100名を超すら しい。あっという間にザック置き場はギュウギュウ詰め。自分のザックを容易には取り出せない 為、必要最低限のものは手元に残しておかなければならないという不便さです。 しかも、もっと恐ろしいのは寝る場所。だだっ広い大部屋に所狭しと敷き詰められた布団は、畳1畳に二人分の寝床がとってあり、完全に雑魚寝状態。 驚愕しながらも、我々の布団の上に目印を置き、とりあえず祝杯を上げるため食堂へ。 同じテーブルになった単独行のお兄さんと暫し談笑し、一緒にお酒を呑みながら楽しい時間を過ごしました。 しかし、下界ではうまくやっていけないんじゃないか?と思われる、ひげもじゃお兄さんでした が、窓にたかった虻を奇麗に外側へ追い出してくれたり、本当は親切で優しい人なんだというこ とがよくわかります。小屋の施設面は難ありとは言え、他の従業員の方もなかなか親切でアットホーム。雰囲気はかなり良い小屋と言えるでしょう。 談笑しているうちに、1回目の食事の時間がやってきたので、とりあえず撤収。 そして一旦寝床へ戻ってみると、大変な事態になっていました。 私のとなりの男性が、完全に私の場所の半分以上を占め、既にぐうぐう寝ており、一体私はどう やって寝たらいいの!!??という状態に。まるで安田大サーカスのクロちゃんを一回りでかく したようなオッサンで、口ひげはクロちゃんの倍以上の濃さで黒々しておりモッサモサ!! 靴下は登山用の靴下ではなく普通の白い靴下で、しかも薄汚れ、ゴムが緩いのか、かかとまでず り落ちているような有様…。 とにかく全体的に不潔感極まりない!! …!!はっきり言って、ムーーリーーーー!!! 紆余曲折あって、こっそり師匠がはじっこにもぐりこんでくれたので、とりあえず一人分のス ペースは空いたのですが、それでもかなり狭い状態。こうなったらNちゃんと抱き合って寝るし かありません。 食事を終え、恐ろしい就寝時間となり、私も覚悟を決め2枚の毛布をうずたかくクロちゃんとの間に敷き詰め、直接肌が触れ合わないよう細心の注意を払います。そして頭の位置も彼より頭一 つ分下がった所に固定、何とかこれでしのごうと決意しました。 劣悪な環境ながら、なんとかこの夜をやり仰せ、予定より1時間程早い3時頃師匠が起こしに来た ので朝食のお弁当を食堂でかき込み、3:50に出発となりました。 仙丈小屋を過ぎた辺りでご来光、しばらく稜線を歩いていると、昨日一緒に呑んだお兄さんと丁 度すれ違いになり、名残惜しいけれどそこでお別れ。私達おすすめの丹渓新道をおそらく目指し て行ったと思われました。 とうとう到着した仙丈ヶ岳(3,032.9m)からの眺めはとにかく絶景!!富士山を筆頭に、北岳 、間ノ岳とNo.3までの山が揃い踏みです。 そして、3,000mを越えたのも今回が初。感慨深く眺め、たっぷりと時間をとって頂上を楽しみ ました。 あとは小屋までの下山で二日目の行程は終了なので、ゆっくりゆっくり下山し、二日目の宿「長 衛小屋」へ到着しました。この小屋、馬の背ヒュッテとは雲泥の差で、なんとも美しく整備され ており、山小屋とは言い難い程の施設で、感激もひとしお。 生ビールを呑みつつ、カップラーメンを食べ、その後は近くの沢でのんびり過ごし、夕食までの 間に文庫本1冊を読了。贅沢な時間を過ごしました。 宿でぐっすり眠り、いよいよ最終日、甲斐駒ケ岳を目指して3時に起床です。 3時40分には小屋を出発したものの、お腹の具合がイマイチで、期待していた仙水小屋ではトイ レを借りられず、致し方なく奥の方まで入ってお花摘み…。そんなことをしながらも、仙水峠に やってくると、丁度日の出となりました。 ここからはかなりの急登が駒津峰まで続きます。その後核心部分の岩場がやってきて、面白い岩場を通り越して行きます。この岩場を面白いと思えるようになったこと自体、かなりの成長を感 じる瞬間です。途中、ここで引き返すと聞かない女性二人組のお一人を叱咤し、一緒に山頂まで 向かう事になりました。直登ルートと巻き道の分岐までやってきたので、師匠を待ちつつ、そこ で休憩しているテン泊のベテラン風お兄さん2人組に直登ルートの様子を聞いてみると、荷物が 多いので、始めから巻き道を使えばよかったと後悔したとのこと。それまでは、直登ルートを 行ってみたいと思っていた私でしたが、今回は安全策で巻き道を行こうと判断。いつの日かのお 楽しみにとっておくことにしました。 師匠と、女性お二人が分岐に着いたので、改めて隊列を組み直し摩利支天経由で山頂へと向かい ます。 途中足場の少ない岩場も多少ありながら、なかなか面白いコースを進み、ザレ場の手前までやっ て来た時でした。 Nちゃんが「あ!!あれ!!」と指差しました。 なんと、雷鳥です!! ようやく念願だった雷鳥ちゃんと出逢うことができました!! つがいだったものの、赤ちゃんたちは見当たらず、もしかしたら死んでしまったのかもしれませ ん。やはり、雷鳥が生きていくのは相当困難になっているのでしょう。 暫し、心奪われ雷鳥ちゃんを愛でてから、摩利支天を横目に山頂へ。最後の大きな岩を攀じ上る と甲斐駒ケ岳(2967m)山頂です。 甲斐駒ケ岳からは、この間登ったばかりの八ヶ岳、赤岳や阿弥陀岳が見えており、更に昨年登っ た鳳凰三山の地蔵岳オベリスクも手が届きそうな程近くに見えていました。 一緒に登って来た女性お二人とも喜びを分かち合い、私達は一足先に駒津峰へ。ここでお昼をと り、今度は双児山経由で下山です。こちらのコース、もう一度ピークを登らなければならない為 か、若干人は少なめ。樹林帯を歩く中、特に目立つ印もなく、もう着くか、もう着くかと思いな がらの下山でしたが、14時の臨時便にギリギリセーフで間に合うというラッキーさ!! あっという間に仙流荘へ到着し、3日分の汗と垢を温泉で流しました。 今回はペースがゆっくりだったせいもあったのか、筋肉の疲労も息切れもなく、かなり楽に登る 事ができました。去年からすれば、大分成長したのかもしれません。 その後は、ご多分に洩れず余った食材で何品か作って打ち上げ! いやーー呑みました。終了時刻は3時。ほぼ徹夜なのに、この元気。異常です(笑) 振り返ってみると、今回の計画は大分余裕があったので、それ自体は何の問題もありませんでしたが、小屋の劣悪な環境で一夜を過ごした経験と、何より雷鳥と出逢えた事が私の中では最も大きい出来事で、思い出に残る山行となりました。 いつもの如く快く軽井沢のお宅を開放してくださった師匠、そしてNちゃん、本当にお世話にな りました。ありがとうございました!! 【今回の仙丈ヶ岳&甲斐駒ケ岳登山記録】 初日行動時間 5時間21分(標準タイム 4時間10分) 8:54 丹渓新道入口 14:03 薮沢重幸新道分岐 5’09 (4’00) 14:15 馬の背ヒュッテ 12(10) 二日目行動時間 6時間02分(標準タイム 4時間30分) 3:50 馬の背ヒュッテ 4:02 薮沢重幸新道分岐 12(10) 4:44〜4:50 仙丈小屋 5:30〜5:47 仙丈ヶ岳(3,032.9m) 1’28(1’20) 6:49〜7:03 小仙丈ヶ岳 1’02(50) 10:12 長衛小屋 3’09(2’10) 三日目行動時間 10時間20分(標準タイム 7時間) 3:40 長衛小屋 4:15〜4:32 仙水小屋 35(30) 5:11〜5:31 仙水峠 39(40) 7:13 駒津峰 1’42(1’30) 9:17〜9:27 甲斐駒ケ岳(2,967m) 2’04(1’30) 11:06〜11:38 駒津峰 1’33(1’00) 12:17〜12:25 双児山 14:00 北沢峠 2’20(1’50) ∴ 百名山記録 19/100 【丹沢山 奥白根山 筑波山 草津白根山 四阿山 浅間山 金峰山 瑞牆山 火打山 妙高山 大菩薩嶺 鳳凰三山 谷川岳 蓼科山 雲取山 八ヶ岳 常念岳 仙丈ヶ岳 甲斐駒ケ岳】